米国カリフォルニア州の新潮流の、上品なピノノワールを生む生産者、「リトライワイン」のオーナー兼ワインメーカー、テッド・レモン氏Mr. Ted Lemonの来日に伴うセミナーに伺いました。

 

<異国で得た、醸造家としての最高の地位と評価>
彼の経歴は特異であります。まずニューヨーク出身の彼はブルゴーニュのジョルジュ・ルーミエ(!)、ブリュノ・クレール、パランといった錚々たる名門で修行した後、なんとブルゴーニュ白ワイン屈指の高評価生産者ルーロの栽培、醸造を任されます。アメリカ人がコートドールでこのような地位についたのは彼が初めてだそうです。(コートドール=ブルゴーニュの著名な村が集まる特に人気の産地。)

 
確固たる地位を築いた彼でしたが、家族経営の生産者ゆえ息子が後継者になるべきである、ということを悟り、彼は、帰国後カリフォルニアに移ります。

 

<探求心から、長年試飲研究、産地探しの旅まで決行!!>
シャトー・ウォルトナーという生産者の立ち上げに携わるほか、高評価のフランシスカン、クロペガスなどのワイナリーのコンサルタントも行いました。90年代初めついに彼は自らのワイナリーを立ち上げるため、米西海岸を北から南まで妻とともに、理想の産地を探して旅を続けることになります。そして見つけたのがソノマコーストSonoma coastという海岸線から少し内陸に入った、海の冷たい風が吹きぬける谷の産地でした。

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ワイン造りを始めるとともに、彼は客観的なワインの指針、評価を得るため、世界中の著名人やメーカーとともに7年間、ブルゴーニュのグランクリュも含めた、ありとあらゆるピノ・ノワールのワインをテイスティングし続け、その場でありとあらゆる意見交換を行ったそうです。
そして認識したこと、彼が造ってみたかったものは、最終的に産地の土地の個性を映すワイン、濃厚ではなく繊細さがあり、食中酒として楽しめるワインでした。

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<不遇の時代、そして時代が彼のワインに追いつく>

しかし当時は今とは全く逆のトレンドのもの、濃厚なワインがアメリカの某評論家をはじめとして、高い評価を連発していた時代。彼のピノノワールはほとんどと言っていいほど評価をされませんでした。
彼は当時を振り返り、経済的な不安、そして売れて華やかな舞台に立つ他のワイン対して羨望、嫉妬の気持ちも語っていました。

 
不遇の時代を経て2005年ごろから世間の風潮が変わり始めます。若い世代のワインメーカーが世界各地に台頭し、新しいワイン造りの波が押し寄せてこと、そしてもう一つ、かつて評論家が高評価を与えたワインも経済状況の変化等で、待っても売れないという時代がやってきました。
若く、新しい生産者たちは例えばピクプールやグリューナーヴェルトリナーといったヨーロッパ伝統国でマイナー品種とされている、ただ個性のある品種を栽培するなど、ワイン造りの多様化が一気に始まります。ここでリトライのワインも徐々に脚光を浴びる日が近づいてきます。

 

<売り込みの相手、それは”Sommelier”>
さらに彼が世間での評価を確立するために仕掛けたこと、それはワインジャーナリストではなく、飲食、販売の現場にいるソムリエに直接売り込むということでした。ソムリエたちはそれぞれに経験値、価値観を持ち、当時無名であっても、食事にあう繊細な、新しい風潮の、(といっても彼は元来長い間造っていたんですが)ピノ・ノワールを踊って評価することになります。
こうして今ではカリフォルニアにおいても繊細、細やかな味わいのピノ・ノワールの先駆者として、他に一目置かれる存在となりました。

 

<単一畑4つの比較を中心に>
さてこの日試飲が叶ったのはリトライのワイン7種類。シャルドネの単一畑、ピノ・ノワールのベース・キュヴェに加え、4種類の違った単一ヴィンヤードと、さらに1つ熟成を経たものです。
シャルドネ チャールズ・ハインツヴィンヤード Charles Heintz vineyard 2014

この名の畑の中から、常に決まった7列の畝を借地していて、それは90年代から20年以上変わらないことだそうです。つまり自社の畑でなく借地でありながらも、ほぼ自らのものとして栽培続けるため、思い通りのコントロールができるというわけです。樹齢は30年。
色は緑がかったレモンイエロー、香りは熟したライムやパパイヤ、ややクリーミーさを感じます。フレッシュバターやクリスピーなアロマもあります。酸、ミネラルがぴっちりと多く、表面を覆い、時間を置いてから果実味が穏やかにそれに乗っているイメージです。ライムジュースのような、旨みと酸が結合したようなエキスを感じます。
時間がたつと、この酸とミネラルは少しずつ緩和されてきましたが、これはおそらく二酸化硫黄SO2を少なくする過程で、ワインを守るために、あえてこの要素を高く仕込まれているという事でした。

 
ピノ・ノワール ソノマ・コーストSonoma coast 2015

シングルヴィンヤード(単一畑)の使われなかったぶどうとプレスジュース(最初にでてきた果汁分け、さらに圧縮しでてきた2番目の果汁)を用いたもの。ややピンクがかった深い赤。フレッシュベリーとジャムのアロマ、ほんの少しベーコンのような肉の香りもします。酸が上に覆う様にありますがカ果実味があってゆったり、後でゆったり旨みが酸とくっつきながらも広がる印象。酒質はピュアで、最初はスパイスの感じは微細で非常に弱いですが、時間とともに感じられるようになってきます。

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プラットヴィンヤード Plett vineyard 2013

ピンクややオレンジも含んだ淡く複雑な明るく、やや穏やかなルビー色。ややハーブやミネラルなどを感じる中心の香り。するりとストレートで果実味、酸は適度にあり、タンニンはほぼ中に溶けていて感じにくい。細やかな旨味がありベリーの華やかさがじわじわと広がり、アフターはまでそれが続きます。酸が溶けていてジューシー、比較的焼くより煮た肉のほうが向いていそうです。

 
サヴォイ ヴィンヤードSavoy vineyard 2013

透明感があり、淡い、非常に薄い真紅から微細にオレンジがかった色合い。チョークやベリーの皮の部分のアロマ。フレッシュで若々しい、やや涼やかで伸びがありクリスピー。酸や旨みもあります。少しダイレクトで強い酒質。

テット氏によると、この畑は最も超熟に耐えうる畑で、山と山が両側に迫ってきて、非常に狭いところにこの畑1つだけがあるという、非常に特殊な環境だそうです。

 

ハーシュ ヴィンヤード Hirsch vineyard 2013

黒味が少しあり深みのある赤色。甘いベリー香ややや甘草のようなアロマ。熟した感じも少しあります。4つの中で最もとろみがあり、果実に暗さや茶葉のようなタンニンを感じます。やや厚みがあり、膨らみ、少しクリスピーな印象もあります。
ピボットヴィンヤード Pivot vineyard 2013

色合いはサヴォイとほぼ同じ。アロマはベリーが穏やかに広がり、ややハッカやハーブのような香りから、不思議なことにスイカ、綿飴のような澄んで少し甘いイメージも感じました。酸がやや高めながら、とろみがあり、果実味は丸く、素直。タンニンは少なめ。暖かみがあり、細やかな旨み、しかししっかりと力強さを持っています。

 
ピボットヴィンヤード Pivot vineyard 2009

エッジ(端)がややオレンジなりかけたものの赤黒い、若々しい色合い。グレープフルーツ、オレンジピールや渋皮のような香り。とろみがあり、穏やかな旨味、わびさびがあるようなイメージです。フルーツの皮のフレーバーが強く、酸やアルコールの芯がありまだ、数年かかるイメージで、非常に熟成がゆったりと進んでいることがわかります。

 
輸入が始まって数年、日本での知名度を上げるのはまだまだこれからだそうです。どのワインも穏やかで、丁寧に造られています。繊細な味付けの食事にあわせるにはもってこいのワインで、細やかなアロマを利用してマリアージュを楽しむことが出来るでしょう。

ただインパクトや、この生産者らしい特徴を捉えるには、この日の試飲に関しては正直やや弱く、2009年の若々しさから言ってもヴィンテージから10年以上たった熟成ものを試したい興味が湧いてきました。またシャルドネはリッチさ、涼やかさのバランスがよく好印象でした。