愛知県、岡崎にて1690年より続く丸石醸造。その歴史ある蔵が発表して間もない銘柄が好評で、一躍脚光を浴びています。

出来上がってわずか2年の銘柄がこれだけ注目を集めるだけでなく、評価が高く、飛ぶように売れているところを見ても、まさに現代日本酒界の「新星」といえます。

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J Style Sake と雄町サミットでも立て続けに試飲出来、先日伺ったお店でも味わった私にとっても縁のあるこの銘柄。純米酒を味わえる名店、新宿の「八咫」さんで行われた、地元銘柄の「徳川家康」、そして希少米を使った「萬歳」を含めた、ほぼフルラインナップを味わえるセミナーに潜入してきました。

<「二兎」ブランド誕生の経緯>

銘柄の謂れですが、「二兎追うもののみが二兎を得る」というもの。すなわち旨みや酸といったあらゆる背反する要素を両方盛り込むことで、酒の多彩な表情を出す。特に「キレ」はその中に必ず入れる方向で酒造りをするとのこと。

ちなみにラベルの兎は杜氏の高校時代からの親友のデザイナーさんが担当。名付け親は社長で、最初から「動物ラベル」になることは決まっていたそうです。

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杜氏によると「にと、と2文字で呼びやすいことも浸透する重要な要素」とのこと、納得です。

<ブレイクするまで試行錯誤続けた、杜氏片部氏>

杜氏を務めるのは、就任して6年、まだ39歳の片部氏。私が何人かお会いした中で、家業を継いだわけではない、外から入社した杜氏さんに共通して言えることがあります。紆余曲折の末に酒造りの世界に入り、出来立ての酒の凄みに「開眼」した杜氏さん達は、その後粘り強く試行錯誤を重ね、豊富な経歴を活かし、最後は誰もが納得する「確固たる酒」にたどり着く様で、片部杜氏もその一人と言えそうです。

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杜氏は最初に超有名家電メーカーに就職したそうですが、「モノ作り」が出来ない環境に段々と違和感を覚え、丸石醸造に入社。1年限定の研修目的の酒造りでその魅力にはまり、造り部門に正式配属となります。数年の修業を経て、杜氏になったものの、その後もしばらくは思った様に造れなかった時期があったようです。

ここ数年で「ようやく思い通りに」造る方向性を見つけ、それが下敷きとなって、二兎のブレイクに繋がっているのです。二兎を得る道は一日にしてならず、でしょうか。

<あえて愛知で意識するのは「あの地方」のお酒>

愛知の酒は方向性が定まっておらず、良く言えば各蔵のヴァラエティーが豊富。

比較的自由な地元の「風土」の中、片部杜氏は東北、特に山形のお酒がお好きな様で、それが酒造りにも反映され、出羽燦々の使用にも繋がっています。(山形推しが強い編集長としても当然好感がもてるわけです。)

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ただ、この地で酒造りをすることのデメリットもある様子。例えば、地元の酒米。愛知県としては県産の酒米の認定数を絞りたいそうで、残念なことに愛知では山田錦、雄町など栽培して使用しても、名称記載されないどころか「酒米」の扱いにもならないそうです、、、。このご時勢にもったいない。

一方、同社で二兎と双璧をなす「萬歳」(下記テイスティングNo.5)は酒米の名でもあり、大正時代の大嘗祭に献納されたほどの米でしたが、栽培が途絶え、種もみから復活した大変稀少な品種。酒に仕込んでいるのは丸石醸造のみだそうで、貴重な存在です。

 

<丸石醸造、二兎、萬歳他9銘柄テイスティングコメント>

「徳川家康」、「三河武士」など同社地元銘柄含め、ほぼ全種、贅沢な試飲をさせて頂きました。

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1.「徳川家康」大吟醸

(この日唯一のアル添=非純米。県知事賞を獲得した商品。)

酸、キレがありながらフルーティー。華やかさも適度で落ち着き、バランス感が秀逸。

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2.「二兎」純米吟醸 山田錦五十五

色は薄め。瓜やスイカのような、透明感と涼やかさある香り。甘みが少なく締まりと、後口の通りが良い。

 

3.「三河武士」純米 生原酒70%

(飯米を使った商品。味噌に負けないしっかりとした味わいを目指す。)

甘みはあるがしつこくなく穏やか、とろみとキレ、米のコクがある。重みを感じるが同時に透明感もある。中盤から甘旨味がぐっと広がる。

 

4.「三河武士」純米吟醸 夢吟香55%

硬さ、みずみずしさがあるが、通りが良い。華やかで香味の返りがよく、余韻に清潔感がある 。

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5.「萬歳」純米 七割磨き

(冷)セメダイン香が若干口当たりにある。とろみがあり、鶏肉に合いそうな香ばしさがある。

(燗)適度なアルコール感があるものの、ゆったりと開き、松葉炊き昆布(味付け昆布/写真一番左)など旨味のあるものをうまく受け止める。

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6.「二兎」純米吟醸 雄町五十五

穏やかでみずみずしく、通りが良い香りが後半にふわりと出る。温度が上がると旨味もじわりと広がる 。

 

7.「二兎」純米吟醸 出羽燦々五十五生原酒

華やかで優しいみずみずしさ。すっきりとした味わい。細かい旨味が広がる。

 

8.「二兎」純米大吟醸 雄町四十八古酒

(冷)米の糊感がある。米の噛み応え、全体のみずみずしさ、玉ねぎのような旨味がある。

(燗)丸み、心地よい酸が細かく、きっちりと感じられる。生ハムと最高に相性が良い。

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9.「二兎」純米 山田錦六十五

柔らかさ幅、心地よい旨味が広がる。全体的に練れていて、口当たりがよい。

 

片部杜氏が何度も繰り返されていた言葉が印象的です。「今は凄く売れて有難いけど、果たしてこの先売れ続けるのか、不安ですね。」酒ブームが沈静化したあとはどうなるのか?どの蔵でも心配されているところでしょうが、やはり気に入った銘柄は「買い続ける」ことが重要だとわかりますね。

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なので、気になった方、気に入った方は買って飲みましょう!

買えるお店は特約店のみですので、HPで確認頂き、是非お試しください。