フランス・シャンパーニュ地方の小規模、優良生産者、アンドレ・ロジェの当主、ジャン・ポール・ロジェ氏が来日し、メーカーズセミナーが行われました。

流通量も多くなく、日本でも頻繁にはお目にかかれないので、楽しみに伺いました。

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栽培農家としては1876年から5代続き、先代のアンドレ氏(現在の社名と同)が自社瓶詰めを始めたのが1968年。

その後もボランジェなどにブドウを卸すことがメインでしたが、現当主のジャン・ポール氏がワイン造りを一から見直し、納得のいくものになるまで20年かけ、ようやく近年輸出に本格的に乗り出した生産者でもあります。

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<アイ村は山の村?谷の村?>

この生産者の本拠地はアイ村(Ay)といい、シャンパーニュの数あるの中でも最も知名度があり、また優れた葡萄の産地として知られています。

この村は行政区分、または産地区分上でヴァレ・ド・ラ・マルヌ(マルヌ谷:下記地図オレンジ)、と呼ばれるシャンパーニュ地方の中心地。マルヌ川流域の産地で一番東と位置づけられています。

ただ他の生産者は、アイ村がより北側のモンターニュ・ド・ランス(ランス山:下記地図ピンク)の麓にもあり、この周辺地域に属する近隣の、ピノ・ノワールで有名な村になぞらえ、モンターニュ・ド・ランスの産地の一部であるかのような認識、自覚持っているということです。

地図中央エペルネ(Epernay)の街とほぼ同位置、右上(北東)に隣接したアイ村は2つの産地帯(ピンクとオレンジ)の中央、境目にあることが分かります。

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ただジャン・ポール氏は、

① 川によってできた谷底の地形であること、

② 南斜面でこの谷底の南側だけ山が途切れて、より冷気が抜ける事、

③ 石灰質の上の表土が比較的薄いこと

などを挙げ、ヴァレ・ド・ラ・マルヌに属するという認識があるそうです。

 

 

<アンドレ・ロジェ「らしさ」をもたらす3つの条件>

シャンパーニュ好きの人には知られていますが、この地方の産地は格付けが村ごとにあり、最も優れたもの17箇所は「グラン・クリュ」と呼ばれ、アイ村はその筆頭格とされています。

アンドレ・ロジェのシャンパーニュのこだわりとして、まず

① アイ村のブドウのみを使用する(1アイテムのみ隣の村のブドウを使用)

② 全て樹齢の高い30年以上のブドウのみで造ること

③ キュヴェと言われるフリーランジュース(ブドウを絞らず、又は軽く圧力をかけただけで最初に出てくる、一番搾り果汁)のみを使う事を心がけています。

一番搾りの次以降の果汁は、かつて栽培全量で行っていたように、全てを大手に売り払ってしまいます。このキュヴェ=フリーランジュースというのは、雑味がなくピュアで、繊細なブドウのエキスをのみを使うことができ、華やかなシャンパーニュ造りには欠かせない原料となります。

 

 

<そしてブドウの「最終兵器」、不可欠なアロマ>

ブドウにこだわりがある以上、その仕込みも丁寧です。小規模な生産者としては稀有なほど多くのタンク、しかしそれぞれはとても小さいものを用意。区画、樹齢ごとに細かく使い分けて、それぞれの特徴を出しています。

ジャン・ポール氏によると、ワイン造りの中でも最も重要なのは、葡萄栽培、特に収穫時期の決定だ、とのことです。ブドウの熟度のデータ、単純に果実や酸の数値のみを取る生産者が多いところを、そのデータに加え、アロマ(香味成分)を重視。実はブドウの香味成分は熟度があがったさらに後で増すので、極力それを待って収穫をするというのです。

当然タイミングを逃せば、もともとのフレッシュな酸をなくす恐れと、さらに雨のリスクも出てきます。その駆け引きには、当然長年の経験熟練度が問われます。

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<実に奥深く、複雑でお手ごろ!試飲5種>

 

20年の探求試行錯誤を経てようやく自信の持てるものが出来て、本格的な輸出にこぎつけたジャン・ポール氏。その偉大なシャンパーニュ5種類試すことができました。

 

ブラン・ド・ブラン

緑がかった明るいレモンイエロー。ライム、黄桃にカスタードのような香り、その後杏、少し酵母(チーズや白味噌)のような風味も若干残ります。シャープで青リンゴのような風味、後口はすっきりとキレ、余韻にリンゴの蜜のよう風味も感じます。

 

ブリュット・グラン・レゼルブ・グラン・クリュ

この商品は同社のベーシックな商品。このクラスをアイ村のブドウ100%で仕込むのは、広いシャンパーニュの中でも他にたった一軒だけだそうです。黄色みが強い黄金色。桃や杏などのフレッシュフルーツ、そしてそのドライフルーツのようなアロマ。カラメルやクッキー、スパイシーなニュアンスも若干あります。味わいには酸の張りがありますが、それを押し上げるように、トロピカルフルーツの厚みある風味が、非常に穏やかでしっとりと広がります。

 

ブリュット・ロゼ・グラン・クリュ

アセロラやチェリーのような色合い、ブルゴーニュのピノ・ノワールそのものの香りで、チェリーや桜の葉の塩漬け、ミネラル由来の塩味のニュアンスも感じられます。酸は細かくもしっかりとあり、淡くほのかなイチゴ、チェリーの風味が乗っかります。飲み心地良い辛口で、バランスに優れています。

 

ブリット・ヴィエイニュ・ヴィーニュ・グラン・クリュ

シルバーがエッジに加わっていますが、ほぼ文字通りのゴールド。白い花やナッツ、パイン、杏などのドライフルーツのアロマ。コク、熟度があり、ややボリュームも感じます。酸と旨味が調和して、奥行きがあり、身の丈に合ったスケール。飲み口も良く完成されたシャンパーニュ。

50年前後の樹齢のブドウ使用。ジャン・ポール氏によると、現地シャンパーニュの生産者同士が1本ずつ持ち寄るブラインドコンテストのような会で、この数年ほど毎年3位以内に入るというのがこのキュヴェだそうです。

 

ブリュットミレジム2009

黄色みの強いコールド。クリーム、クッキー、アプリコットなどの香りに、ミネラル、チョークなどもあり、クリスピーで厚みのある酒質。豊かさを感じ、こちらもまとまりに長けた優れた出来栄えです。

 

職場のワインショップにも「ブリット・ヴィエイニュ・ヴィーニュ・グラン・クリュ」は導入。この出来でたったの8,300円(税別)です。

 

ジャン・ポール氏は非常に穏やかな人柄。仕事探究熱心で今回、2週間日本でのプロモーション、バカンスに費やすそうですが、年間のバカンスはたった3週間しかとらず、いかに常日頃仕事に没頭しているかが読み取れます。価格から考えても、素晴らしい出来栄え、知られざる掘り出し物といえるシャンパーニュ。ぜひ多くの方に飲んでいただきたい逸品です。