当WineLive.netでも、外国語での蔵紹介(日本語含む)“Sake Wine Makers’ Guide Japan”でご紹介したこともある愛媛県・成龍酒造のスポークスマンで、酒造りの主力でもあるイケメン常務、首藤英友さん同席のもと越後屋五郎兵衛さんでの「ナイトフィーバー」に参加してきました。この企画は蔵元を招いてお話を伺いながら飲み比べ、つまみは自由にたのめるというもの。
(以前鳩正宗・佐藤企杜氏ナイトフィーバーのレポートはこちら。)
この日は伊予賀儀屋シリーズ7本を、自由に頼んだつまみと共に頂きました。
ここでは、以下の項目別に伊予賀儀屋をあらゆる側面から紹介していきます。
<食中酒としての味と水>
<何気なく見ているラベルにも情感がある>
<酒造りに特化すること。米は農家さんに任せるべき。>
<米蔵、水蔵、匠蔵、総合型。酒蔵のタイプのカテゴライズについて>
<7種テイスティングコメント>
<食中酒としての味と水>
職場での取り扱いもあり、イベントで数度頂いたこともあって、比較的馴染みのある蔵です。伊予賀儀屋シリーズ総じて、私が感じる味わいの特徴は、
1.味わいがピュアで滑らかである(これは他の参加者の方もおっしゃっていました)
2.適度な濃度、旨みがありながら、個性を主張しすぎず、どんな食事・つまみに合わせるか、想像するのが楽しみになるお酒。
です。1.については、圧倒的にわかる仕込み水の滑らかさ、美味さにびっくりしたことがあります。
春のとある日本酒のイベントで、同じ会場に出品していた三社の仕込み水を飲み比べた時、同行者と「全然違うね」と声を上げたものです。一般論では必ずしも水が美味ければ酒がうまくなる、というわけではありませんが、水を活かした造りならば、その良さを「表現」出来るのでしょう。
首藤さん自身もそれを証明して下さいました。蔵に戻るまでは、元々日本酒が苦手で(!)、ほかの蔵のものは好んで飲めなかったそうです。しかし実家の蔵の酒はやはり幼い頃から飲んでいた水質が身体にあってか、難なく飲めたそうです。この話を聞くと、やはり水も日本酒の味を決める、欠かせない要素なのだと実感するお話でした。
<何気なく見ているラベルにも情感がある>
成龍酒造では地元の風土、自然をいかに酒に反映させるかを常に考えていらっしゃいます。それが上記の様に水にも現れますが、もう一つ重要なのがラベルです。例えばこの空ラベル、とてもきれいな色合いだと思いませんか?
このラベルに関してもお話を伺いました。「数ヶ月の間蔵に籠もりきりで酒造りをしたあと、5月ごろにようやく外に出た時に、初めて見る青い空。その空の色を表現したものです。」ということでした。当然その空の色の染み渡る鮮やかさは数ヶ月、蔵の中に実際居てみなければ、体感することはできないでしょう。しかし人間には「物を語る」という能力があります。この話を聞いて酒造りをしたことがない私にも、心が震えるような情感は湧いてくるのです。とても綺麗な空なのだろうなと。
酒造りも、やはり一つの「表現」手段です。一所懸命造られたものであればこそ、ラベルにも魂を込めるのは当然。私はワインに関しても「いかにラベルが物語って重要か」繰り返し申し上げてきましたが、伊予賀儀屋のラベルになぜか惹かれてきた理由も分かったような気がしました。
<酒造りに特化すること。米は農家さんに任せるべき。>
上記、お酒が苦手だったエピソードからしても、幼いころから、絶対酒造りをしよう!と思い続けてきたわけではない首藤さん。実際蔵に戻ってすぐは「固定給の仕事から、どうなるかわからない酒造りの世界に入ったので不安」だったそう。麹・酵母をはじめ、人間の目に見えないものと向き合う世界、どれだけ経験を積まれても絶対はないのでしょう。
私はワイン・日本酒の造り手の方に話を聞くときは、他社との違いがどこにあるか、それを聞く事が消費者の方に「どんな蔵か」伝える早道と、意識しています。
そこで首藤さんに一番聞きたかったこと。べたですが「酒造りで一番難しいことは何ですか?」
少し考えられた後、返ってきた答えは「一番難しいのは、毎年入ってくる米の状態が違うので、造りをそれに対応させること。」ということでした。確かに納得、と思う一方、素朴な疑問も湧きます。前日に丁度、久野九平次さんのセミナー(ご興味あればこちら)を聞いていたこともあり、米造りをしたり、契約栽培の米なら対応しやすいのでは?という素人考えでした。
そこは明確に「米は農家さんに任せるべき。」自社田や契約栽培の米は使わない、というお答えを頂きました。成龍酒造は歴史ある蔵でもあります。造りに特化してこそ、らしい味、水の反映といった看板を掲げられる。確かに何でもやろうとすると、何も出来ないことにもなりかねません。(中には完璧主義で全部やる蔵元さんもいらっしゃって、それはそれで敬意をもっていますが。)
<米蔵、水蔵、匠蔵、総合型。酒蔵のタイプのカテゴライズについて>
この2日で私はとても大切なことを知りました。各蔵の特徴を、初心者の方、興味を持って違いを知りたい方に、端的に伝えるには、看板となるものでカテゴライズするのがもっとも早いと。
米蔵、水蔵、匠蔵、総合型:とでもさせて頂くとして、今まで関わらせて頂いたり、お話を伺った蔵を分類すると
a.米蔵:自社栽培・契約米などを用いて米を活かした酒
竹林(丸本酒造:岡山)、天鷹(天鷹酒造:栃木)、醸し人九平次(萬乗醸造:愛知)など
b.水蔵:文字通り、他にない水質を活かした酒
富鶴(愛知酒造:滋賀)、ちえびじん(中野酒造:大分)、ともちろん伊予賀儀屋(成龍酒造)など
c.匠蔵:著名な杜氏、特徴ある酵母、ビール同様にクラフトスタイルを特徴とする
新政酒造(秋田)、東光(小嶋総本店:山形)、天吹酒造(佐賀)など
d.総合型:上記3つの要素に積極的に絡んでいる蔵
楯の川酒造(山形)など
簡潔、明快な紹介を心がける当サイトとしては、今後もこの分類を意識していこうと思います。ただ、こちらが分類を勝手に押し付けるのではなく、あくまで蔵元のかたに、どのスタイルで「売っていくのか」意識して頂くことがまず第一歩かと。例えばcとdの違いは微妙ですが、区分できれば蔵の「主題」を知ることに繋がると思います。
<7種テイスティングコメント>
さて話を伊予賀儀屋に戻します。この日味を見させて頂いた7種類。それぞれのコメントを、一部合わせたお料理と共にご紹介していきます。
純米吟醸無濾過生原酒 黒ラベル
(自家酵母使用)
香りは米の香り中心で極めて穏やか。透明感があり味がとても細やかです。キレというより微細なビター感があり、余韻もすっと引く。温度が上がると、風味に軽く生姜のようなメリハリも出てくる。このバランスの良さ、究極の食中酒かもしれません。この日はあん肝、白身のフライに合う。
純米無濾過生原酒 黒ラベル
(BK1酵母使用)
冷酒でありながら、とろみと温かみ、アルコールのじわりとした、穏やかな広がりが感じられます。香りはわずかにミカンやパッションフルーツなどの果実が穏やかに混じります。時間と共にほのかな甘みにボリューム(アルコール感)が一体となって、香りと共に広がります。なぜか焼きねぎと調和しました。
純米しずく媛無濾過生原酒 空ラベル
細やかな米感がありつつ、すっきりとしてちょうど良い香り。華やかでほのかな甘みがあり味わい。丸く、さらりととした口当たりに、細かい酸、辛味や、穏やかでじわじわした旨みが感じられます。甘すぎず、ボリュームが上がりすぎて酒臭いということもありません。紅芯大根の様な歯ごたえしっかりの物が良いと感じました。
純米袋吊おりがらみ生原酒 番外編1
クリーミーでしっとりとした香り。まろやかで重過ぎないがコク、立体感があります。しっかりとした味付けの食事でも受け止めそうです。
純米吟醸原酒 限定熟成
すっきりとして瑞々しい香り、さっぱりとして華やか、かつしっとりしている。深みのあるコクも感じます。温度が上がると、アルコールの集中力が若干増します。揚げ物白子の春巻きに合いました。
純米無濾過原酒 秋あがり
(10月1日の日本酒の日記念の品)
秋の夕暮れをイメージする、しみじみとした味わい。きゅっと締まり、コクや凝縮感もあります。旨味、アルコールとボリュームのところがくっつき、しっかりとしたうまみを感じます。
味口本醸造生 うすにごり原酒
華やかで丸みがあり、落ち着いた印象。開けたては若干青い香りと細かいガス感があります。すっきりとした中に、米のまろやかさ、うまみが細やかに混じりる。いぶりがっこチーズと良く合いました。
越後屋五郎兵衛さんでのナイトフィーバーは、首藤さんとのタッグによる伊予賀儀屋の会だけで、何年にもわたって開催されてきたそうです。お互いの信頼のなせるわざ。
首藤さんいわく「このお店でずっとやらせてもらってありがたい。最近は色んなところからイベントのお声かけを頂いてますが、対応しきれず断わらせて頂いてます。」
これを店長の三浦さんにお伝えすると「本当ですか?やぁ、嬉しいですね。」名コンビ、今後とも応援させて頂きます。
最後までお読み頂きありがとうございました!
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