チェパレッロというワインで有名なキャンティ・クラシコ地域の生産者「イゾレ・エ・オレーナ」オーナーのパオロ・デ・マルキさんが5年ぶりに来日され、セミナーが行われましたので伺ってきました。
パオロさんは80年代からワイン造りに携わるベテランであり、60歳を超えた今でも精力的に自らのブランドの普及、そしてキャンティ・クラシコという地域の発信、伝統を守る活動されています。
<先祖の夢、、、北イタリア、レッソーナの新プロジェクト>
また新しいプロジェクトとしてデ・マルキ家のルーツであるピエモンテ州北部のレッソーナという、一時期打ち捨てられていたワイン産地において、家族親戚がそれぞれ所有していた土地を買い戻し、ワインの生産を始めました。この「プロプリエタ・スペリーノ」という別ブランドは、パオロ氏の曾祖父のいとこにあたるスペリーノ家がかつてワイン生産を営んでいた地所で後継者がいなかったところ。20世紀初頭にデ・マルキ家が引き取ったものの、本格的なワイン生産は行われず、1999年パオロ氏が買い戻すまでは日の目を見ませんでした。
南ピエモンテのバローロ、バルバデスコ、モンフェッラートなどは日本でもよく知られていますが、そちらの隆盛とは異なり、北ピエモンテはかつて1.6万ヘクタールもの広大なブドウ産地があったにも畑があったにもかかわらず、現在は8百ヘクタールほどに減少います。
生産地はレッソーナと言われるイタリアでも最小クラスのDOC(生産地呼称地域)であり、古くて新しい産地。比較的知名度のあるところではガッティナーラ、ゲンメと呼ばれる産地の近くです。(比較的といっても、ワイン、特にイタリアに詳しい人が何とか判るレベル、、、)
南ピエモンテが粘土、石灰等が中心の肉厚なワインを産む一方、北部は花崗岩や砂が多くミネラルを多く含んだ、繊細で軽やかなワインの産地。2000年当初はこのレッソーナの生産者はたったの1軒だけに減少していましたが、現在は12生産者他に2軒が立ち上げ準備中で、市場にも7、8種類のワインが出回っているようです。
土地の値段もかつての5倍になっているとの事で、今後注目の産地であることは間違いないとおっしゃっていました。
「プロプリエタ・スペリーノ」でこの日試飲したアイテムは2つ。
Uvaggioウヴァッジョ 2011
ネッビオーロ、ヴェスポリーナほかのブレンドです。丸くオレンジかかった深めの赤、やや熟成感が出始めています。プラム、アンズなどの香りが特徴的。酸は高めでタンニンは細やかでジューシーさがあります。暖かみもあり、ケチャップにあるような、旨みと果実味が熟してくっついたようなトーンもあります。全体的に飲み心地良く、メリハリとしなやかさが同居した、使いやすい赤ワインと言えそうです
Lessonaレッソーナ2011
こちらはネッビオーロ100%。先程同様エッジ(端)は僅かにオレンジがかりながら、やや黒味が強い色合い。香りはカカオ、チョコなどのトーンが強め。少しスパイスや甘草などのハーブのニュアンスもあります。酸はありますが細やかでタンニンは後口にかけてまだしっかりあり、華やかでしなやかな印象。
<今流行の「エレガント・ワイン」をもう35年造っている先駆者>
さてここからは本家イゾレ・エ・オレーナのご説明。元々イゾレとオレナという別々のワイナリーが統合されてデ・マルキ家のもとで大きな発展を遂げました。所有している土地は350ヘクタールと広大ですが、そのほとんどは森林、葡萄畑は50ヘクタールほどです。キャンティ・クラシコの地域の中でも最も西側のBarberino val d’Elsa バルベリーノ ヴァルデルサに位置し、比較的透明感のあるエレガントなワインの生産で知られます。
そしてこのワイナリーの特徴としては、早くからシラーを栽培し、他に先駆けて100%シラー種のワインを造ったり、カナイオーロとともにキャンティ・クラシコにブレンドすることによって、他にはあまり見られない組み合わせの品種配合で造られます。
また彼のワイン造りのキャリアは「キャンティ・クラシコと呼ばれる為の法定・規定」との戦いの歴史でもあり、白ぶどうを混ぜて作るキャンティを否定したり、サンジョヴェーゼ100%ワインをいち早くリリースしたものの、当時のワイン法ではキャンティ・クラシコと名乗れなかったため、かえってIGT(地酒)格でリリースした、いわゆる「スーパータスカン」(呼称規定を外れた高級ワイン)の先駆けの1つでもあります。
自社園以外にもこの地方の産地、生産者を知り尽くし、かつては、現在活躍中のマスター・オブ・ワインが若かりしころ、キャンティ・クラシコの土壌特性についてセミナーをしたり、キャンティ・クラシコ協会の幹部と親交があり、折に触れて意見するなど、まさに「番人」とでも呼べる方です。
今では法律の方が、時代又はパオロ氏の考え方に追いつき100%サンジョヴェーゼでもキャンティ・クラシコを名乗り出るのですが、今更すぐにはチェパレッロをIGTから、クラシコ呼称に戻すことにはためらいがあるようです。
<あのチェパレッロのラベルはここから来ていた!そして4VT垂直試飲>
またこうして生まれたチェパレッロのラベルですが、先ほど説明したレッソーナのかつてのワインのラベルからとられているそうで、かねてからデ・マルキ家のルーツ、ピエモンテの産地に思いをしていたことが窺い知れます。このラベルのルーツの話は知っている人も少ないのではないでしょうか。
看板商品チェパレッロを贅沢にも4ヴィンテージ比較テイスティングさせて頂け」ましたので、それを中心に味わいのコメントを。
キャンティ・クラシコ2014(下の写真、中央左)
紫がかった若い青みのある深い赤。細やかな酸といきいきとした印象。二口目からピチピチとした味わい、親しみやすい印象もあります。先日のカステッロ・デイ・ランポッラのキャンティ・クラシコ2014も同じく親しみやすく飲みやすい赤い果実が顕著でしたがある程度離れたキャンティ・クラシコの産地でも共通点があることが見て取れます。例年にも増して、軽めで綺麗な味わいに仕上げられていることは、やはり夏の冷涼な天候不順の影響を上手くカバーしている事に起因するのでしょう。
ここからはチェパレッロ4ヴィンテージ
2007年:あんず、バルサミコ、スパイス、ユーカリなどのアロマ、単に細かなタンニン、甘くなまめかしい黒目の果実の印象。最初は少し枯れかけた熟成感も感じましたが、途中から旨みとして開いてきているので、まだ今後も生命力を見せるかもしれません。ハーブと青黒い芯があるのでティーボーンステーキなどが相性としてよさそうです。
2009年:上記とは対照的にスパイスの風味、干しぶどうやドライフルーツフルーツの甘み、旨味が増し、グラマラスな印象。酸も綺麗で旨みとくっつき、バランスよく、充実感とハリがあります。より多くの人に受け入れられる味ではないでしょうか。個人的にも大きなグラスでゆっくり飲み頃みたい、どストライクの好みです。
2012年:酸に少しまだ少し落ち着きがなく、果実の丸さ、甘さ、タンニンも少し外で荒れている印象ですが、ポテンシャルはありそうです。リッチでバターのような乳化した厚みのあるフレーバーもあります。数年の熟成で丸く艶やかな、素晴らしいワインになることでしょう。
2013年:細かいスパイス、埃っぽさを少し持ちつつ、暗いベリーの香り。赤黒さ、艶やかでメリハリのある果実味。細やかな酸も生き生きとして、今飲んでもある程度楽しめるヴィンテージです。今すぐに飲むなら、やはり煮込んだ肉より焼いた肉を、シンプルな味付けで食べるのが相性として良さそうです。
そして新規定ワイン
グランセレツィオーネ2010年(写真一番右):キャンティ・クラシコの規定の中で、近年新たに生まれた、特別なブドウを用いて造られる、上級キュヴェのこと。イゾレ・エ・オレーナでは、現在まで2006年と2010年しか作られておらず、希少価値の高い特別なワイン。価格もチェパレッロの3倍以上もする高級品です。
酸と凝縮味がそこそこありつつも決して迫力厚み、重さを感じるわけではなく、パオロ流の華やかさ、飲み心地、バランスを残したキャンティ・クラシコの理想像といえるかもしれません。現状で評価をするのは時期尚早で、やはり数年単位で熟成の過程を見て、細やかさ、複雑味が出てくるのを待ちたいところです。
<「理想の産地」はあの産地。サンジョヴェーゼとキャン・クラの番人がこれからも目を光らせる>
セミナー後に、パオロ氏に「あなたのワインが元来エレガントなのは分かりますが、それは何かに影響された、または好みなどがあるのでしょうか。」と伺ったところ「私は元来ボルドーよりもブルゴーニュワインの方が好みの人間。それだけにワインに重み、凝縮感をもたらすことはしたくない。トスカーナのアイデンティティーであるサンジョヴェーゼを活かすということは、その品種の代名詞である酸をいかに美しく保つかということです。」と答えてくださいました。
そこで私は大切なことに、今まで気づかなかった事を自戒します。ワインの世界ではイタリアワインの産地をフランスの様にたとえバローロ、バルバレスコなどピエモンテ州のワインのネッビオーロ種はその華やかさからブルゴーニュに例えられ、一方中部のキャンティ・クラシコはかつて濃縮味のあるスーパータスカンや骨格のあるキャンティ・クラシコの隆盛により、「ボルドー的」と例えられてきました。
しかし元来サンジョヴェーゼの酸というのはピノノワールの酸に関連付けて考えることさえ出来れば、当然「ブルゴーニュ的」な産地とも言えるわけです。
<パオロさんにとってワインとは○○!>
パオロ氏はとても気さくな笑顔をふりまき、セミナーの参加者一人一人の席へ名刺を持って回る、物腰穏やかな紳士です。写真からもその雰囲気は感じ取っていただけるでしょう。
しかしその奥には穏やかな中にもキャンティ・クラシコ地域の文化と伝統を守る、という使命を持っており、現在世界中で活躍するマスターオブワインを相手に、若い頃に多くのセミナーをするなど、かねてより肝や伝統を守る活動されてきました。この地域のワインの魅力、良さを守るために「もう引退する年だけれども」と言いながら、まだまだ若々しく精力的に活動を続けられています。
別れ際にパオロさんが「エチケットのここにIL VINO E’ CULTURA. IL VINO E’ NATURA.(ワインは文化、ワインは自然)」とあるでしょ(下のラベル写真、下から2行目)。これこそが信念。とおっしゃいました。言われてみれば書いてあったば深く考えなかったです、、、
返す刀で私が「全くそのとおりですし、ワインのテクニカルより、誰が、どこで、どういう想い、着想で造ったかが大事ですよね。日本では樽の期間がどうだ、発酵はステンレスか、そんなことばっかり聞く人が多いですが。」
とパオロ氏「他の国でもそんな人ばかりだよ。その通り、大事なことは他にあるのにね。」とお互いの考えに同調できる良い会話でした。
今後毎VTごとにチェパレッロのリリースのが楽しみであることはもちろん、彼の意思を反映した、赤い果実にと華やかさ美しいキャンティ・クラシコが、この地に引き継がれていくことを願ってやみません。
文中にも出てきましたが奇しくも、同じキャンティ・クラシコの「カステッロ・デイ・ランポッラ」のセミナーと同時期で比較するには最高ですので、こちらの記事との読み比べをお勧めしております。