現在六本木ヒルズにて行われているクラフト・サケ・ウィークの初日に伺いました。
このイベントは元サッカー選手の中田英寿氏がプロデュースするということで、話題にもなっています。
現役時代、私もフィレンツェに住んでいた折、パルマというチームにいた彼の試合を観に行った事があります。彼はサッカー選手引退後、世界中を回り様々な国で子供たちにサッカーを教えながら、現地の文化を見てきました。
その後日本国内各地を回り、伝統工芸や職人の技に触れる中で日本酒の魅力に惹かれ、今回のように日本酒の魅力を紹介するイベントに携わるに至ったようです。
このイベントは10日間で各日10社の蔵が出展し、それぞれ3種類ほどのお酒を出しますので、30種類程の中から好きな銘柄を比べ飲みすることができます。そして食中酒としての側面にスポットを当てる為、一流・有名飲食店のメニューも屋台として出されています。
伺ったのがイベント初日ということで、出展している蔵はどこも綺羅星のごとき顔ぶれ。気になるところから選んで飲み比べようとしたのですが、結局「ここのものは飲まなくて良い」という判断にはどの蔵もならず、各社1種類ずつ計10種類を味見してしまうことになりました。その中でも、それぞれ驚くほど違いがありまたし、同じスペック(製造過程)でも全く違う方向性を読み取ることが出来ましたので、その辺も非常に参考になりました。
<笑四季(えみしき)>マスターピース:口当たりすっきり感があり、軽い苦味、後味のキレがよい。その後の余韻に米の丸みと華やかで細やかな甘みが感じられます。繊細で変化のある興味深いお酒。この蔵は「恋をするたびに」という銘柄の、商品名、ラベルともに連続テレビドラマのようなシリーズも手掛け、新しい市場開拓にも意欲的であります。
<山和>純米吟醸山田錦 プリート:イタリア語で、澄んだ、清廉とした、という意味の言葉。この純米吟醸は新商品だそうで、香りはまさにメロンのような甘さ、フルーツ果汁様の優しいタッチの口当たり。細めの酒質ですが、後口はキリッと引き締まりこれも変化が楽しめます。飲みやすく幅広い層に受け入れられそうな味わいです。
<写楽>純米吟醸雄町:非常に幅、とろみがあり口当たりは甘めの印象。しかし後口は引き締まって、すーっと引いていきます。余韻には何とも言えない米の旨みが広がり、これまた変化が楽しめます。私自身は雄町使った酒は好きですが、一般的に力強さ、軽い苦味などが出て、苦手な人もおられるようです。しかしこの写楽に関しては、そういった癖もないので、広い層に楽しんでいただけるでしょう。
<賀儀屋>純米吟醸生原酒:昨年の愛媛の酒試飲会でその品質の高さに感銘を受けた蔵。また「原酒人」としての私にとって非常に興味深いお酒。ただ今まで飲んだどんな原酒ともまた違う、広がり、というよりはぐっと引き締まった旨み、辛さを感じます。最初の口当たり自体はわずかにに米の甘みがありますが、その後は力押し、パワフルな酒質です。「冷や」よりもぬる燗にして広がりを見てみることも楽しめそうな、深み、厚みのある一本です。後述の「イカ墨のクスクス」とは、お互いの豊な味わいを引き出しあう、素晴らしい相性です。
<一歩己(いぶき)>純米無濾過生原酒:前述の賀儀屋の原酒とは、同じ原酒と思えないほどに好対照。「原酒人」をアピールしてしまった為、蔵元さんからは「原酒にしては軽いですよ」との説明。確かに軽いには軽いのですが、細やかな旨味フルーティーさ、雑味ない味わい。後味にキメの細かい米の風味が残る傑作といえます。これも「イカ墨のクスクス」と合わせたのですが、イカ墨の旨みをうまく引き立たせる、それでいて食事のコク旨みを邪魔しない、食中酒のお手本と言えそうです。
残りの5本については後編にて。