彼には、とても大切なことを教えてもらいました。それは「ブドウの樹の気持ちになること」です。いきなりこんなことを言われると、頭がおかしいのではないか、と思う方がいて当然です。数多くのワイナリーに訪問、セミナーに参加し、あらゆる生産者との話をしてきたものの、このような目線で問い掛けてくれた方は初めてでした。まさに目からウロコ、不意を突かれました。
飛び跳ねるカエルのラベルでお馴染みの、米国、カリフォルニアの著名ワイナリー「フロッグス リープ」。長くオーナーとしてワイン造りに携わってきたジョン・ウィリアム氏が来日され、メーカーズセミナーが行われました。冒頭の話を含め、情熱的な語り口の中にも、論理的に伝えられるワイン造りのコンセプトに、参加者も皆釘付けになった内容をお伝えします。

IMG_1525
フロッグスリープは1981年、前述のジョン氏によって元カエルの養殖場に設立され、(これだけでも、ワイナリーとして特殊)現在は移転先のラザフォードに130ヘクタールの広大な土地を持ち、自然栽培に特化して優れたワインを造ってきました。彼らの畑やワイナリー周辺の写真は、どれも色鮮やかです。なぜなら、色とりどりの花や草木が生い茂っているからです。特に葡萄畑はカバークロップ(緩衝草)と言われる、ぶどうの木の間に生えている草が、どちらかというと主役のように見え、雑草地の中に葡萄の樹が植わっているかのような錯覚さえします。これは世界的に見ても稀な例です。

IMG_1528

このワイナリーでは、梨、桃、人参他数多くの野菜・果実を栽培し、周辺のレストランに供給しているそうです。ここで冒頭の話につながるのですが、この植物のダイバーシティー(多様性)こそが、健全なブドウの生育に不可欠なのです。
ブドウは種の保存のために受粉が必要であり、その点多くの草花に囲まれた土地のほうが、生育に適しています。しかし世界中の多くのワイナリー、とくに10~30年前の生産性を求められていた時代には、余計なものを排除し、ブドウの量や凝縮感ばかりを追い求め、まさに樹からブドウの果汁を搾り取るかのような栽培をするのが横行していました。現代においては、比較的有機栽培、ビオディナミ(積極的有機栽培)などが広く浸透しつつありますが、これだけ早い時代(90年代)から自発的に自然農法に取り組み、それを一義としている生産者はそれほど多くありません。(他の例として、オーストリアのニコライホーフなどが挙げられます。)

この日テイスティングしたワインは6種類
1 ソーヴィニヨン ブラン ラザフォード2016:クリアで明るい黄色から薄緑。香りはミント、バニラ(樽のダイレクトなものというよりはアイスクリームの様な繊細なもの)。百合やジャスミンといった花の香り、繊細でクールなミネラルも感じられます。
何より驚くのはその芳香性の高さ。通常ワインの香りというのは、こちらが取ろうとして分析しないとわからない程度に微細なものもありますが、このソーヴィニヨン・ブランに関しては、グラスの中からどんどんと香りが立ち上がってきます。味わい酸、ミネラルは溶け込んで穏やか。わずかな塩味を感じます。余韻が非常に長く、華やかでいてほどよく力の抜けた、優しい酒質。いい意味でシンプルかつピュア、とても飲み心地の良い、透明感があり、中心に果実味が優しく広がるワイン。私は、大好きな北イタリア・テルラーノ社の「クオルツ」というワインを連想しました。
2 シャルドネ ナパヴァレー 2014:やや黄金色の透明感ある、わずかに緑がかったエッジ(端)。チョークのようなミネラルの香りとブリオッシュ(パン)、先程とは違う少し厚みのあるバニラの香りがします。香りだけで甲殻類が食べたくなる様な澄んだ香ばしいアロマ。しばらくたつと火打ち石のような香りもでてきて、まさにブルゴーニュのピュリニー・モンラッシェ等を彷仏とさせる香りです。果実の膨らみがあり、下から突き上げるような、そしてミネラルが上から押さえつけ、決してその2つが分離しているわけではなく、今のところせめぎあっているような複雑な味わい。アフターに少し苦味が感じられます。造り手の真面目さが滲み出る、非常に細やかでバランスの取れたボディ。ジョン氏はカリフォルニアの樽の効いた濃いシャルドネが大嫌いだそうで、こういうピュアな、ブルゴーニュ意識した造りに行き着くとのこと。今ではナパヴァレーの代表的なシャルドネとは一線を画すとして、現地ワイン学校の参考教材にも、逆に使われなくなってしまったそうです。
3 ジンファンデル ナパヴァレー2014:暗めの真紅、まるで車のフェラーリを彷彿させる色あい。これだけ鮮やかな赤は他のワインにも滅多にないほど。香りにダークチェリー、プラムやわずかにチョコレートのようなアロマ。後でバラやスミレのようなフローラルな香りもしてきます。不思議なことにも、国産のメルロで感じられるような、ピュアな果実の香りがしてきます。味わいには若干の酸、微細なタンニン由来のメリハリあり。華やかな赤い果実の風味が広がり、ほかのワインだとリオハのテンプラニーリョなどに代表されるような、澄んでいて、肉付きの良い味わいがします。粒が大きくアルコールが上がりやすいこの品種のワインがエレガントさを保つために、カリニャンとシラーをブレンド。ジンファンデルの比率を全体の80パーセント程度に抑えているそうです。

後編に続きます

広告