若さと清潔感、バイタリティー溢れる山形県酒田の蔵、「楯野川」。純米大吟醸のみを醸すという国内でも有数の、特殊な蔵です。

3年前、日本酒に興味を持ち始めた頃に、ホームページの「社風の新しさ」に惹かれて伺ったことのある、思い入れのある酒蔵でもあります。

日本酒好きが集まる名店、「蕎麦居酒屋 太閤」さんで、夢のような企画、11種類のみ比べが実現しました。


1、攻め生:口当たりのやや甘さから、ほんのりとした辛さと苦味に変化する。全体的にすっきりとした味わいのお酒です。刺身や天ぷら一般的な酒の肴、濃すぎない味わいのものには万能で合うと思われます。
2、春にごり:楯野川らしい優しい口当たりと、繊細な余韻は同じくあります。酸が溌剌として外向きなお酒、「攻め生」よりはメリハリがあり、ふんわりとした米の柔らかさも感じます。これは魚の南蛮漬けと合わせたのですが、これぐらいの酸味、爽やかさのある魚料理に合わせるのも良いでしょう。個人的にはにごりはあまり得意ではないのですが、これは美味いと思えました。

 

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3、初槽:口当たりにキレがあり、米の芯の部分を感じるような引き締まった中にも、米の旨みが後口に広がります。前の2つと比べて、しっかりとしたボディを感じますが、表情は繊細で、容姿端麗な貴公子と言ったところでしょうか。
4、主流:フルーティーな丸み、甘やかさが出てきて、後半に軽く引き締まります。すっきりとキレがあり、洋食向きの、明るい表情なので、魚のフライと合わせてみたところ、衣が香ばしくなり非常に良い相性でした。


5、直汲み生:透明感あり、白い花の香りなどがします。ワインの表現で申し訳ありませんが、リースリングの香りに近いような、白い花など華やかな香味がします。酒質はやや細く、筋肉質でやや辛口、きゅっと引き締まります。これは豚の角煮とは非常に良い相性。一方、前述の魚のフライとはまずまずの相性でした。
6、本流辛口:香味が華やか、冷ややかでドライな印象。それがすっきりとまとまり、すぐに流れて消えていきます。飲み飽きしない、「酒飲み受け」がする味わい。食中酒としても好適で、あらゆる場面で活躍しそうですが、焼鳥や白身魚、焼き物野菜の味噌炒めなどと相性が良さそうです。
7、清流:香り、味共にストレート、本格派。すっきりとして雑味もなく、きれいでブレない味わい。フライドポテトが当日は合いましたが、あらゆる薄味の酒のつまみに広く合わせられそうです。薄造りの白身魚なども、是非この清流をあわせたいところ。一方、チャンジャなど刺激の強い辛いものには負けて合わなかったので、他のものがより合う気もします。
8、清流無濾過生原酒:香り、膨らみ、若干のスパイシーさ、炊いた米の風味が穏やかに広がります。旨み、田んぼの土の風味を含んだ丸み、母なる大地を感じるさせるお酒です。酸もあり幅の広い、豊かな包容力のあるお酒といえるかもしれません。これは鶏もも肉、豚肉など、ある程度の脂身を持った肉料理などがいいでしょう。

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9、しぼりたて生:幅があり、適度な酒の香り、アルコールと酸がくっついた旨味を感じます。辛すぎず、味わい深い一本です。蕎麦との相性は非常に良かったです。
10、雄町:幅があり、後口に若干の厚み。言われなければ判らない程度ですが、どこかしら雄町らしい味の深み、力強さ、それが楯野川調に華やかで、きれいにアレンジをされています。が他のシリーズとは明らかに違う余韻、この雄町では立体的、若干男性的、静かに湧き上がるパワーを感じます。当日出されていた鴨肉とは抜群の相性でした。
11、美山錦:(写真内、資料が誤りの様です)アタックはおとなしいものの、フレッシュで柑橘のような酸を感じます。今までのような酒の旨みとくっついた乳酸のタッチとは違い、直線的で華やかといえるかもしれません。これも蕎麦との相性が良かったのと、軽めのチーズ、魚を使ったつまみとの相性が良さそうです。

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楯野川は年間15、6種類の違う酒をリリースされています。全量純米大吟醸というと非常に品質の高い、ピュアなお酒を造るということはわかると思いますが、逆に言うと純米大吟醸以外を作らないという事ですので、酒蔵が作るカテゴリーは狭まってしまいます。つまり酒米の違い、酵母と麹の違い、醸造の違いだけで15種類の違いを表現しなければなりません。
その違いの出し方が非常に巧みであり、ピュアで丸い口当たり、優しいコメのうまみを間近に感じながら、さらりと霧の向こうに消えていく和服美人のような印象は、ほぼすべての酒に共通して存在します。この技術と主張こそがこの蔵の魅力と考えます。蔵に伺った時のに感じた魅力にプラスして、今回もとても魅力を感じました。
今年酒蔵に再訪することがほぼ決定。今からとても待ち遠しいです 。