この記事は「都農ワイン 特別メーカーズディナー」の後編です。
前編はこちら。
最後に「ズワイガニのサフランパエリア」と「甲州プライベートリザーブ」。南国宮崎であえて栽培される甲州。一方ボケリアさんのパエリアは、頂くのは2度目ですが、サフランしっかり、色づきのある本格スタイルというよりは、少しサフランを抑えた、魚の出汁を前面に出した炊き込みご飯の表情が半分。やさしい味わいの日本人向きのパエリアで、これはこれでとても美味しいのです。
そしてその強すぎないパエリアの風味に、甲州の適度な果実味、ボリューム、そして細やかでクリーンな後口が、とても合うではありませんか。出汁の旨みを引き立てるのには、やはり甲州はとても向いている品種といえます 。
醸造家の赤尾さんとは職場でも、イベントなどでも、お会いする機会が多く、おそらく10度ぐらいは顔を合わせています。しかし、今回メーカーズディナーという、ワインと向き合う時間をたっぷり頂いたことで、いろいろな過去の苦悩や挑戦、これからの展望、これまでに無いほど、突っ込んだお話も伺うことができました。
そんなお話の中で、「日本のワインというのは、天候(特に日照)に恵まれないので、濃度は劣ってしまう。今まではその濃度足りない部分を、ピュアな味わい、低アルコールの中でのバランスでカバーしてきたものの、今後は濃厚なワインにもチャレンジしたい」というお話がありました。
私は今のワインの完成度が充分高いので、日本であえて海外のような濃厚なワインを造る必要はそれほど感じていませんでした。
ただし今回、10種類のワインと向き合ってきた中で、そのようなお話も踏まえて、一番印象的なワインとなったのが、メインの肉料理で登場した「プライベートリザーブ・シラー」です。このワイン、率直に言いますと、単体で飲んだ時、他より果実の線が細く、物足りないと思ってしまうかもしれません。
しかし、細かいところまで味わい、風味をみると、海外のとあるワインにニュアンスが近いことに気づきました。それは南フランス・北ローヌ地方の銘醸ワイン、老舗の某生産者者が造る、「エルミタージュ」というワイン。印象としては、最良年のものではなく、若干冷涼な収穫年の、数年熟成したトーンが、このシラーに似ていると思ったのです。
若干淡く、こなれた味わいの中に、旨み、そして非常に細やかなスパイスの風味を感じます。表面上若干土っぽく感じますが、それが細やかなアクセント、旨みとしてクセになる要因を持って、穏やかに広がります。つまり赤尾さんのお話と繋げると、この平均年の熟成したエルミタージュのような、現状のシラーに、濃度を加えることにより、今日の名醸地におけるシラーのような風格を備えてくるかもしれない、ということです。
20年後どうなっているか、その可能性は否定することはできません。栽培技術の革新も期待できるでしょう。なんといっても赤尾さんが今まで20年で築いてらっしゃった、今日の完成度。振り返ってみれば、これだけのものができるということは、周りの誰も、かつて期待していなかったのではないでしょうか。だからこそ今日の豪華なラインナップの中で、このシラーにいちばんの期待値、伸びしろを見出してしまうのです。
同行者はこのボケリアさんの食事、そして都農ワインのピュアな果実の繊細な飲み口に、この会をとても堪能しておりました。私にとってはやはり、ワインをすでに楽しみ尽くしている、百戦錬磨の愛好家の方よりも、ワインの楽しみ方を知らない、または今は縁がない方々に、どうやってワインの楽しみ、素晴らしさを伝えていくか、の方が使命として感じられます。
ですので、このこういった機会をより多くの、普段ワインを飲んでいない人に提供していけるか、それがこれからの課題だと思っています。きっとそれは井出さんにとっても、赤尾さんにとっても同じことでしょう。
最後に長年コンビを組んできたこの2人のツーショット写真、とても画になりますよね。仕事においてこのような相棒が得られるということは、とても羨ましいことです。
ちなみに、右の赤尾さん、神戸ワインの醸造担当・濱原さん、そして私は同じ年。お二人に刺激され、これからも負けじと頑張ります。