あの瞬間のことは忘れもしません。初めて都農ワインの「シャルドネ・アンウッテッド」を試飲した時のことです。国産ワインという先入観で相対したそのワインは、非常にトロピカルで熟した風味、丸い口当たり、アルコールのものとは違う、フルーツそのもののボリュームを感じ、とても日本のワインではないという印象でした。ただ海外のどこのワインとも違う、何か新しい領域に踏み込んでしまった、そんなイメージを受けたものです。それ以来気になる存在として、職場でも数年来取り扱いをさせて頂いてきました。

その一方、去年の年末、とあるワイン会で偶然使わせていただいた、四谷の「ラ・ボケリア」さん。店長・井出さんが、大変国産ワインに造詣があり、日本ワインの探求、紹介を、ブームが来る何年も前から行っておられることを知り、感銘を受けました。その中でも赤尾さんが造る宮崎県の都農ワインに惚れ込み、常に追いかけていらっしゃいます。

ちなみに店名の「ボケリア」ですが、スペイン・バルセロナに行かれたことがある方なら分かると思いますが、街の中心にある、大きな市場の名前に由来しています。実際にいくつかの食材はそのスペインの「ボケリア」から取り寄せて、使われています。
その井出さんからメーカーズディナーを行うということで、お誘いを受け参加しました。
この会にはあえて、ワインを普段飲まない、知識も無い人に同行してもらいました。マリアージュ(食事との組み合わせ)の魅力、そして都農ワインの味わいそのものに、フラットな意見が欲しかったからです。


席について驚いたのは提供されるワインと料理の数、それぞれ10種類です。それがたったの6,500円、相当な価格破壊といえます。おまけにこのしっかりとした資料。なかなか片手間で出来るものではありません。
資料にはこのように、細かな香り、味わいの解説があり、目の前の、飲んでいるものを、どう説明していいか分からない人にも理解出来る表現です。判りやすいと、同行者も感心しきりでした。
特に素晴らしかった組み合わせをピックアップ。まず最初の「トマトジュレと都農産のごくとま」。赤尾さんの紹介で仕入れ、この料理に登場した甘みの強いトマトと「Hyakuzi(百二)エクストラセック」のマッチング。Hyakuziの爽やかでいてコクのある味わいが、トマトのフレッシュさうまみと共鳴する、開始早々心躍る組み合わせです。
Hyakuziは都農ワインが誇る、瓶内二次発酵の人気スパークリングワイン。涼やかな青いトーンがわずかにありますが、深み、香ばしさが主としてあります。泡もち、味わいのバランスよく、最後の一口まで楽しめ、またしっとりとした余韻が料理に馴染むような気がします。


3品目の「フォアグラムース・マンゴーのコンフィチュール添え」。こちらにあわせた「キャンベルアーリー・ロゼ」はアルコールが低く9パーセント、やや甘めの味わいですが、飲み手を和ませる癒し系。これもうまく寄り添うコンフィチュールのしっかりとした甘み、そしてマンゴーの風味にぴたりとハマる、キャンベル・アーリーのフルーティーさ。両方が口の中で幾重にも重なり、とても豪華なのですが、ワインの細やかな酸味が抑え、甘過ぎることなく余韻はすっきりと味わえます。
お次は「小海老とシャキシャキ蓮根のアヒージョ」&「シャルドネエステート」。シャルドネエステートは色付きが良く、風味豊か、適度なボリュームを持っており、若干オイリーなイメージを受けます。樽の風味などは決して強くないので、チキン南蛮のボリュームとシーソーの様に上手くバランスが取れています。

ワインと料理の組み合わせとしては比較的定番の考え方かもしれませんが、非の打ち所のない相性は、細部ワインのことを知り尽くした人が仕込む料理とすぐにわかる、心くすぐられる一品です。シャルドネは何といっても舌ざわり。まろやかで、樽香、アルコールなどがくどくない、この程度のバランスが一番飲み心地よく感じます。

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メインの二品は同時に。スペイン料理を代表するメインの「イベリコ豚のグリル」。さらに豪華なことに「宮崎牛ロースト」には九州の看板調味料、柚子胡椒のアレンジ。これに「プライベートリザーブ・シラー」、そして「シャルドネ・アンフィルタード」を合わせます。

プライベートリザーブのシラーは輸入物のそれとは違い、それほど濃度があったりスパイシーさが強い、というわけではありません。またシャルドネのアンフィルタードは今まで出てきた3種類のシャルドネの中では、最も色づき、力が強く、複雑で濃密なもの。国産白ワイン全体の中でも、風味が強く、複雑な部類に入るワインといえるかもしれません。


さて一見すると、見た目とソースから、赤ワイン塩のイベリコ豚にシラー、柚子胡椒が加わっている宮崎牛のローストにシャルドネ、という組み合わせの方が合うような気がしたのですが、その辺は料理の面白いところ。はたまた井出さんの狙いもあるでしょうか。

私には逆の組み合わせの方が気に入りました。つまり、素材のほうの相性です。イベリコ豚の噛みごたえに、ボリュームのしっかりとしたシャルドネが、また柚子胡椒と宮崎牛のほんのりスパイシーな風味に、プライベートリザーブの細やかなスパイス感、華やかさがとても合うのです。ソースの主張が、強すぎない為に、ワインの風味が引き立つ、という部分もあるでしょう。ただこれはきっと個人の好みの出るところで、食す人によって、何通りも感想が出てくる、楽しい組み合わせかと思います。

後編に続く