この記事は「第1回 ピノノワールサミット ミーティング」後編です

前編はこちら

#C:醸造についてのお話(梗を残すか、薄旨はありか?)

ピノノワールは濃度をどの程度にするかにより大きく差が出る。そこで本場ブルゴーニュでも2派に分かれる「発酵に梗は入れるか入れないか」という問題と、高畠の川邉さんが他の5名に呈した疑問「(例え濃度が出なくても)薄旨を目指すのはありなのか」についてもそれぞれ考え方、アプローチの差が浮き彫りになりました。

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(前編同様写真がボケぎみで申し訳ありません)

①サッポロ 「ピジャージュ(液面に上がってきた果皮の塊を崩し沈める)のみで始まり、中盤に酸素を入れたり、ルモンタージュ(液体を果皮の上からかける)もする。10日前後で終了。バルーンプレス(風船状のやや柔らかい圧力装置)で葡萄を搾るがで、それでも最後の果汁は熟度が低く苦味が出る。この部分を入れると「薄旨い」ではなく「薄まずい」ワインになりかねないので、入れるかどうか割合を考えるのが大変。余市と長野で造り変えない。ただし北海道は梗を入れる。長野は入れると渋くなる。「

②サントリー 「津軽のスタイルとしては、緩やかにプレスして除梗する。樽でマロラクティック発酵後、1年樽熟する。アタックは繊細ながら後半のボリュームが出る。樽でマロラクティック発酵することで成功した。」

③ 高畠 「コールドソーク(冷やして果実を保管)するこれにより色付き。攪拌前半は多めに、中盤以降に頻度を下げ、抽出しすぎないようにする。樽熟などは基本的に白ワインと同じ。今までありとあらゆる醸造法を試した。全房発酵なども行ったが、マイナスだった為行わない。醸造において最も大事なのは設計。わかりやすくし、それに基づいたプランで行うこと。スタッフとの共有の面でも大事である。」

④メルシャン「2006と10年植える。梗を入れた2009年発酵時には、量も少なかく、発酵が一気に終わってしまい、失敗だった。2011年に果梗残すことで失敗したので、もうやらないつもり。ピノノワールの抽出やりやすくするため、セニエ(果汁分だけ減らして濃縮する方法)も取り入れるが、やりすぎるのもよくない。」

⑤ヴィラディスト 「薄旨について特に意識はしていない。ただ濃すぎない繊細な抽出、除梗、破砕しないこと。2016年に実験的に行った9全房発酵。それほど青くなかった。今後入れていくかもしれない。」

⑥都農 「凝縮させたい。そのためコールドソークする。香りが甘いのでエレガンスも取るため、バスケットプレスも導入。古樽中心から少し新樽も導入。選果台の導入、櫂入れでポンプの併用などを行う。」

醸造の考え方も、土地の特性、問題への対処法の違いで、異なった行程を経ていることが分かります。同じ品種でもこれだけの差が出るのは興味深いですね。

#D:今後について展望

現在、日本の有力ワイナリーの醸造を手がける皆さん。その方向性を知れば、日本ワインの未来が見えるかも知れません。

①サッポロ・工藤さん 「ピノノワールは産地特性が特に大きい。同じ品種でも、津軽と長野2つの産地で全く違う。今後は二産地をブレンドするものを造るかもしれない。気候変動クローンの再選択などもするかもしれない。」

②サントリー・渡辺さん 「アロマ、種が熟すことが重要。緯度的に向いているので、楽しみ。現在岩手広島などで栽培されている石灰岩土壌のピノノワールの行く末を見てみたい。」

③高畠・川邉さん 「シャルドネを作ってきて、ブルゴーニュワインのような一流のワインを目指している。そのためピノノワールの比率も高めたい。究極のワインデザインが求められる、最も厄介な品種。余韻を楽しめるものを作りたい。」

④メルシャン・生駒さん 「植物学的なアプローチつまり、土壌について、また品種、クローンについての研究でワイン醸造に貢献していきたい。」

⑤ヴィラデスト・小西さん 「2015,16の多雨で難しさを見たが、今日の対話は刺激、モチベーションになった。ピノノワールは厳しいが、やはり挑戦したい品種。今後は雨よけなど、栽培の工夫をするかもしれない。」

⑥都農・赤尾さん 「ピノノワールは増やしていく。個人的に好きなので余韻を楽しめるものを作りたい。10年で伸びたソーヴィニョンブランのように、可能性はあると思う。」

いかがでしたか?醸造・栽培家という職業の方がいかに日ごろからトライ&エラー、問題を解決しつつ、常に次への展望を持っているかお分かり頂けたのではないでしょうか?

日本ワイン、そして国産ピノノワールの将来、10年、20年と劇的に変わっていく姿を見届けましょう!!

文・写真:吉良 竜哉

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